サムスン電子、平澤半導体工場を本格稼働。年末にはシェア4割に

起工式のボタンを押したのは朴槿恵前大統領だった

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投信1編集部による本記事の注目点

  • サムスン電子は2017年7月4日、16兆ウォン(約1兆6000億円)という巨額を投入して建設した平澤(ピョンテク)半導体工場(第18ライン)から、本格的な新製品の出荷を開始しました。
  • 6月末に完成した新工場は、主に64層3D-NAND(V-NAND)フラッシュメモリーを作るスペースであり、平澤半導体団地の一部にすぎません。
  • 平澤半導体工場の本格稼働によって、サムスン電子は、器興(キフン)~華城(ファスン)~平澤にまたがる世界最大級の半導体クラスターを構築したことになります。
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サムスン電子は2017年7月4日、16兆ウォン(約1兆6000億円)という巨額を投入し建設した平澤(ピョンテク)半導体工場(第18ライン)から本格的な新製品の出荷を開始した。

7月4日、新製品出荷を祝うサムスン電子の関係者ら(写真提供:電子デバイス産業新聞、以下同)

新工場が属する平澤半導体団地の総敷地規模は289万m²に達し、サッカー競技場400面に相当する広さを誇り、直接・間接の雇用効果は15万人を超えるといわれる世界最大の半導体工場である。6月末に完成した新工場は、主に64層3D-NAND(V-NAND)フラッシュメモリーを作るスペースであり、平澤半導体団地の一部にすぎない。つまり、これから段階的かつ弾力的に新しいラインを次々と構築していく計画なのだ。

政権の命運すら左右した平澤工場起工式

2015年5月の平澤半導体工場起工式の様子(中央が朴前大統領、左から2番目が李副会長)

実は、平澤半導体工場の建設秘話には、注目すべきところがある。起工式を行った15年5月、当時の朴槿恵(パク・クネ)大統領は、起工式にわざわざ出席し、大々的に激励の演説を振るうという異例の行動をとった。それまで朴氏は「経済の民主化を実現するには財閥優遇政策を徹底的に排除しなければならない」と公言していただけに、韓国財閥の象徴ともいうべきサムスン電子の平澤半導体工場に駆けつけて、起工式のボタンを押すというのは不可思議に映った。

だが、このようなサムスンとの特別な関係が後の不正疑惑にまで進展したのでは、と韓国市民団体らは指摘する。起工式以降、16年10月から朴政権とサムスンを含む韓国大手財閥との癒着疑惑が浮上したほか、朴前大統領の40年来の親友とされる崔順実(チェ・スンシル)氏によるスキャンダルなどが発覚。17年3月10日、朴前大統領は弾劾されて身柄を拘束され、今はほぼ毎日のように裁判を続ける身に転落している。また、16年12月6日には韓国10大財閥のオーナーらが国会の聴聞会に呼ばれ、朴政権との関わりを追及された。17年2月17日に結局、李在鎔(イ・ジェヨン)サムスン電子副会長だけが逮捕され、長い裁判が続いている。

2年前の、平澤半導体工場の起工式における朴前大統領と李副会長との異例の出会いは、韓国半導体産業への激励の場というより、両者の利害関係が急接近し始める「ターニングポイント」になったのではないかと思える。実質的なオーナーの拘束によって経営の空白が生じたサムスン電子は、今回の新工場の完成セレモニーを一切行わなかった。通常ならば、多くの来賓をはじめ、工事関係者や内外メディアを招いて派手にアピールするはずである。

3D-NAND好調で利益率40%へ

いずれにせよ、平澤半導体工場の本格稼働によって、サムスン電子は、器興(キフン)~華城(ファスン)~平澤にまたがる世界最大級の半導体クラスターを構築した。

とりわけ、平澤新工場は、「半導体の超好況」というベストなタイミングに完成したことから、サムスン電子の収益力の拡大とともに、雇用創出と平澤地域経済の活性化にも大きく寄与する見通しだ。

3D-NANDフラッシュは、携帯電話やPC、サーバーなどのストレージに採用されるメモリー半導体で、16年下期から世界のIT業界から注文が殺到し、供給不足に陥っている。サムスン電子とSKハイニックスなど韓国勢の17年1~3月期の営業利益率はそれぞれ40%、39%という驚異的な数字を記録している。

17年末にシェア40%突破の見通し

3D-NANDフラッシュ市場における競争の構図は、東芝やマイクロン、SKハイニックスなどが16年末と17年から48層製品の量産を本格化したばかりであるなか、サムスン電子は64層を実用化して最も先行している。3D-NANDフラッシュは、積層が高くなればなるほど、歩留まりアップとともに収益性も高くなる。サムスン電子はNANDフラッシュ生産量のうち、64層3D-NANDフラッシュが占める割合を17年末までに50%に引き上げる計画だ。同製品がサムスン電子の売上高と収益性を同時にアップさせることから、同社のNANDフラッシュ市場シェアは16年末の37%から17年末ごろには40%台を突破する見通しだ。

高積層に伴う物理的な限界を克服

サムスン電子はまた、64層製品の場合、積層が高くなるにつれて構造が不安定になりがちな3D-NANDフラッシュの物理的な限界を乗り越えたと評価されている。3D NANDフラッシュが50層を超えると、構造自体が曲がったり、最上階の層と最低階の層の動作がかみ合わず、性能が落ちる。同社はこのような問題を解決するために、層と層をつなげる微細な穴の個数を増やした。こうすることによって、高層建物に鉄筋を埋め込むように、荷重を分散することができる。

また、積層が高くなれば層間の干渉現象でデータの安定性が落ちる問題も解決したという。NANDフラッシュは、電荷を閉じ込めてデータを保存する仕組みだが、電荷が集まるセルとセル間の膜をさらに薄くし、データを細密に制御しつつ保存できるようにしたものである。従来の技術では64層のデータ干渉現象は48層に比べて10%増えるが、サムスン電子の超薄膜技術ではむしろ20%減少した。

3D-NANDの生産能力は17年末に月産66万枚へ

サムスン電子は、64層3D-NANDフラッシュを前面に立てて、本格的にNANDフラッシュ市場のシェア拡大を狙う。同社は今まではSSDだけに限って提供してきた64層製品を、スマートフォンとPCメーカーにも供給するという。64層製品を搭載すると、軽薄で省エネのセット製品が作れる。つまりは、製品競争力を左右できるコア部品であるだけに、供給が需要に追いつかない市況になっている。

このような爆発的な需要によって、世界の3D-NANDフラッシュ市場におけるキャパシティーは、16年末の月産25万枚から17年末には月産66万枚に膨らむと予測されており、サムスン電子の市場シェア(売上高基準)はさらに高くなる見通しだ。

電子デバイス産業新聞 ソウル支局長 嚴在漢

投信1編集部からのコメント

業種を問わず、日本企業で1.6兆円もの設備投資をできる企業があるでしょうか。半導体は装置産業であり、設備投資の多寡が価格競争力を決め、収益を決定づける要因です。その点を考えると、日本の半導体産業には二度とチャンスが訪れないのではないかとすら思えてきます。

ただ、朴前政権との関わりを追及されたサムスン電子は、今年2月17日に李在鎔(イ・ジェヨン)副会長が逮捕され、長い裁判が続いています。こうした状況が今後サムスン電子の意思決定にどのような影響があるのか、注視していきたいと思います。

電子デバイス産業新聞×投信1編集部

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