2023年4月からの年金支給額が3年ぶりに引き上げとなりました。67歳以下の人は2.2%、68歳以上の人は1.9%引き上げられます。

しかし、物価上昇ほどの伸び率とはなっていないことから、実質的には目減りすることになります。

喜ばしいニュースと思いきや、そうではないこのニュース、平均的な年金をもらっている人の生活はどうなるのでしょうか。

そこで、厚生年金受給者の平均額である15万円で生活すると、老後はどんな生活になるのか、手取り額と平均的な生活費から、ひと月の収支を出してみました。

自分がもらえる年金額は平均的な年金額よりも多いか少ないかで、老後の生活が予測できるでしょう。

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1. 厚生年金の月額平均は約15万円。現役時代の年収はいくらか

厚生労働省が公表している「令和3年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、厚生年金受給者の年金月額の平均は14万5665円となっています。

約15万円が平均ということです。参考までに、国民年金受給者の平均年金月額は5万6479円となっています。

厚生年金を月15万円もらう人の年収はいくらなのかも気になりますね。

2003年4月以降に40年間厚生年金に加入したと仮定して計算してみます。

厚生年金は国民年金の上乗せなので、国民年金の満額6万6250円(令和5年度)を引いた8万3750円が厚生年金の額となります。

厚生年金の額は次の式で求められます。

平均標準報酬額 × 5.481/1000(生年月日に応じた率) × 480月(40年) = 厚生年金の額

8万3750円を年額にした100万5000円を当てはめて計算します。

平均標準報酬額 × 5.481/1000 × 480月(40年) = 100万5000円

平均標準報酬額は約38万2000円となりました。年収にすると458万4000円です。

厚生年金受給者の平均年金額は約15万円(月額)であり、15万円受給できる人の年収は約460万円ということがわかりました。

2. 年金月額15万円は手取りにすると13万7000円

年金を月15万円もらったとしても、それを全部生活費に充てられるわけではありません。

年金からも社会保険料(国民健康保険料・介護保険料)や税金(所得税・住民税)が引かれます。

月額15万円の年金の手取り額を試算してみましょう。

計算にあたっては次の条件を設定します。

<試算条件>
東京都八王子在住、66歳一人暮らし、厚生年金180万円(月15万円)受給、年金以外の収入はない

2.1 国民健康保険料

  • 所得割額:(前年の総所得金額等※-基礎控除43万円)×9.67%
  • 均等割額:加入人数×5万6600円

※前年の総所得金額等=公的年金収入-公的年金等控除額

参考:年間保険税の決め方(令和5年度(2023年度))|八王子市公式ホームページ

所得割額は、180万円-110万円=70万円が前年の総所得金額となり、そこから基礎控除を引いた27万円に9.67%をかけると2万6109円になります。

均等割額は5万6600円となりますが、均等割額には軽減措置があり、このケースでは5割軽減に当てはまるため、2万8300円となります。

参考:軽減措置|八王子市公式ホームページ

所得割と均等割を合計すると、5万4409円(年額)となります。

2.2 介護保険料

介護保険料は市区町村ごとに定めた所得段階に応じて保険料が決められています。

住民税の課税状況と年金収入によって所得段階を判断します。東京都八王子市の場合、16段階に分かれています。

参考:令和3年度(2021年度)から令和5年度(2023年度)の介護保険料(所得段階)|八王子市公式ホームページ

第6段階にあてはまるため、7万9400円(年額)となります。

2.3 所得税

所得税は以下の式で計算します。

(公的年金収入-公的年金等控除額-各種所得控除-社会保険料控除)×税率

180万円-110万円-48万円(基礎控除)-5万4409円(国民健康保険料)-7万9400円(介護保険料)=8万6000円(課税所得)

※基礎控除以外の各種所得控除はないものとします。

8万6000円×5.105%=4390円

所得税は4390円となります。

2.4 住民税

  • 所得割一律10%(市民税6%+都民税4%)
  • 均等割5000円(市民税3500円+都民税1500円)

所得割の計算

180万円-110万円-43万円(基礎控除)-5万4409円(国民健康保険料)-7万9400円(介護保険料)=13万6000円(課税所得)

13万6000円(課税所得)×10%=1万3600円

※調整控除は考慮していません。

所得割と均等割を足すと、住民税は1万8600円となります。

社会保険料と税金をすべて合計すると15万6799円となります。月額にすると約1万3000円になります。つまり、月に15万円年金を受給している人の手取り額は13万7000円となります。

3. 一人暮らしの高齢者の生活費はいくら?

13万7000円の手取り収入に対して、生活費はどのくらいかかるのでしょうか。総務省統計局の「家計調査」から、65歳以上無職の単身世帯の消費支出をみてみましょう。

出所:総務省統計局「家計調査/家計収支編/単身世帯/2022年/第6表 無職65歳以上」をもとに筆者作成

生活費は約14万3000円かかっています。13万7000円の手取りから生活費を引くと6000円の赤字になりました。

この消費支出は1ヵ月の支出の平均を表したものなので、普通に生活して、常に6000円の赤字では、年金だけで生活するのは厳しいといっていいでしょう。

この上に予定外の出費が重なったら、貯金を取り崩して対処するしかありません。取り崩せる貯金がない場合は、生活が立ち行かなくなってしまいます。

4. 生活費以外にかかる老後の出費。介護費用はいくらか

老後のお金の問題で心配なのは、病気やケガをした時の医療費や介護になった時に介護費用ではないでしょうか。特に介護になると、期間が長引くために金銭的に苦しくなるケースが見受けられます。

公益財団法人・生活保険文化センターの「2021年度生命保険に関する全国実態調査」によると、介護に要した費用(公的介護保険サービスの自己負担費用を含む)のうち、住宅改造や介護用ベッドの購入などの一時的にかかった費用の合計は、平均で74万円となっています。これに加えて、月々の費用は1ヵ月当たり平均で8.3万円かかっています。

出所:公益財団法人 生活保険文化センター「2021年度生命保険に関する全国実態調査」

出所:公益財団法人 生活保険文化センター「2021年度生命保険に関する全国実態調査」

同調査によると、介護期間は平均61.1カ月(5年1カ月)とあるので、一時費用と月々の費用から介護にかかる費用の総額を求めると、580万3000円となります。

生活費以外におよそ600万円を介護費用として用意しておく必要がありそうです。

5. まとめにかえて

厚生年金受給者の平均的な年金額でも、年金だけで生活するには不足することが、家計調査の平均データからわかりました。

厚生年金を月額15万円受給できる人の年収はおよそ460万円(40年間勤務した場合)なので、自分はどのくらい受給できるのか、ざっくりした目安はつかめたのではないでしょうか。

40年間勤務して欠かさず年金保険料を支払っていても、年金だけでは生活できない(生活が苦しいと予想)というのは、超高齢化社会がもたらす問題です。

公的年金で生活基盤を作り、不足分は現役時代に各々で蓄えておく、あるいは老後も長く働くことで、老後資金の不足分をカバーするなど、自助努力で何とかするしかありません。

そうなると、健康でいることが老後の生活基盤を盤石にする大事な要素となります。老後の資金作りと健康に過ごすための体つくり、両方をやっていく必要があるようです。

参考資料

石倉 博子