実力部隊経験者から見た、希望の党の失速とリーダーの在り方

組織を成長させるために知恵を搾ったか?

Ned Snowman / Shutterstock.com

小池都知事と若狭衆議院議員(当時)がつくった「希望の党」は、設立当初どれほどその勢力を伸ばすかと期待され、あるいは危惧されていたが、小池人気の急激な低下と軌を一にして一気に凋落した。

その理由や原因についてはほぼ語り尽くされているように思うが、およそ40年間にわたる実力部隊(軍事組織)での経験を踏まえ、指揮官(リーダー)の在り方を中心に再考してみたい。

政治の世界には我々一般人が測り得ない独特の力が働いていると推察するが、ここは純粋に組織や指導者の在り方について考えてみようと思う。長い目で見た場合には、正当な生き方がより多くの国民の支持を得られるであろうし、最終的には良い仕事(国造り)につながると考えるからである。

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永久不滅の組織はない

長嶋さんがユニホームを脱ぐときに観衆に放った言葉、「我が巨人軍は永久に不滅です」は日本中を感動に巻き込み、巨人ファンのみならず多くの国民を泣かせた。本当に華のある野球選手だった。しかし究極の組織で半生を過ごしてみると、平家物語の「驕れる者久しからず・・・」がより琴線に触れる。

軍事組織におけるリーダー(指揮官)は、任された部隊を徹底的に鍛え上げていざ鎌倉に備え、一度(ひとたび)出動を令されたならば粛々と任務に就く。そして、最終ゴールである「勝つ」ことを求められる。

そのために内外の情報を収集して戦略を構築し戦術を練る。枝を見る人、木を見る人、森を考える人は、それぞれ別の人間である。枝や葉が集まって一本の木になり、木の集合体が森となる。そして最高指揮官の命令一下、上級指揮官から末端の兵士までがそれぞれの任務に向かって整斉と動く。

構成員がそれぞれの立場で任務を遂行することが、より上位部隊・上位指揮官の任務遂行に寄与するように作戦命令はできている。

軍事組織では日々このような教育・訓練を行うのである。精強な部隊の錬成には時間がかかる。いかに優秀な精鋭を集めても短時間の付け焼刃で、世界に冠たる軍隊(組織)ができあがることはない。

希望の党はどの程度練られてできた組織であったのか。メディアで知る限りにおいては、脳みその限りを使って建設された組織ではなさそうだ。勢いで膨張した組織は勢いでしぼむ。熟成にはほど遠かったような気がする。

会社でも役所でも組織という組織は、これを長期にわたって成長させ維持していくためには大変な体力を要する。汗をかくと同時に知恵を搾らなくてはいけない。それでも組織に永久・永遠はない。人間が永遠に生きることができないように、組織も早晩終焉の時が来る。

昭和のヒーローである長嶋さんの上げ足を取るわけではないが、永久に不滅と思われた読売巨人軍は今どのような状態にあるか。どこかでボタンを掛け違えたのではないかと思う。

希望の党は生まれたばかりの組織である。出自がどうであれ、これを成長させ拡大していくために必要とされるものは何だろう。

私は政治には全く通じないが、政党や政治家に求められるのは、一言で言えば「理念」だと思う。

暴言と非難されることを承知で言えば、瑣末なことはどうでもよろしい。希望の党の創設においていかなる理念があったのか。確固とした理念があればブレることはない。そこが最も重要なポイントであり、先の衆院選では有権者(国民)からそこを問われたのではないか。また、今後も問われるだろう。

かつて泡沫のごとく消え去った党や死に体状態にある党の二の舞になるのか、あるいは自民党に対抗し得る組織に成長するのか。リーダー(代表や幹部役員)の資質と舵取りが問われる。

指揮官はどうあるべきか

2年ほど前になるが、拙著『指揮官の条件』(講談社現代新書)で指揮官(リーダー)の在り方を世に問うた。階級で部下を率いる時代は、とうに過ぎ去っているとの認識に立った見解である。そのなかでカリスマについて言及した。

組織には時折カリスマなるものが出現する。カリスマと思しき人のオフィスを訪ねると、直ぐにその空気を感じることができる。仕事場は戦場であり張り詰めた空気は必要だが、カリスマの周辺には異常な空気が流れている。

いや、正確に言えば空気は流れていない。張り詰めたままの空気が沈滞しているとでも言おうか。このような空気の中では周囲がご機嫌取りになる。カリスマは自信があり気分がいいので益々増長する。組織の中でガンガンやっているのはいいのだが、外に向かっては饒舌になりがちである。そこに落とし穴がある。

人間は弱い生き物である。組織のリーダーはまずそこを認識する必要がある。

どれほど個人の能力が高くても、素手のときに百人二百人に囲まれたらとても歯が立たない。一人の力はごみ程度などとへりくだる必要はないが、少なくとも組織を束ねる仕事や配置に就いたならば、部下や周囲の力を結集することに意を用いなければならない。

部下の力を集める環境を作る。環境づくり、そこが出発点である。それは例えて言えば、やさしい算数の問題である。だが1+1=2にはならない。1+1が5や10になる。逆に1-1=0ではなく、組織ではマイナスの値になる。

一見、小学1年生でもできそうな足し算や引き算のようだが、簡単なようで実は難しい問題なのだ。カリスマはいくら偏差値が高くてもこの問題が解けない。

船乗りには「順風においては繊細に、逆風にあっては大胆に」という古い教えがある。帆船時代の教訓と思われるが、今日の我々の仕事の仕方や身の処し方にも通じるものがある。

人間の弱さなので仕方ないのだが、大概の人はこの逆を行こうとする。調子がいい時にはそれいけドンドン、物事や仕事がうまく転がらないと慎重になりがちである。

この原稿を書いている最中に小池さんの、希望の党代表辞任のニュースが飛び込んできた。“子どもたち”はこれからどこへ行くのだろうか。私の脳裏には「理念」という言葉がちらつく。

髙嶋 博視

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髙嶋 博視
  • 髙嶋 博視
  • 博海堂株式会社 代表 
  • 香川大学客員教授


香川県出身。防衛大学校卒業。

ノルウェー日本国大使館防衛駐在官、護衛艦隊司令部幕僚長、第一護衛隊群司令、海上幕僚監部人事教育部長、護衛艦隊司令官、統合幕僚副長、横須賀地方総監を経て平成23年(2011)8月退官。現在は執筆活動や講演活動に従事。

半生を日本の海上防衛に捧げ、その間、テロ対策特別措置法に基づくインド洋派遣や、東日本大震災における災害派遣活動を経験する。

「歴史に学ぶ」を信条とし、歴史を通じて平和の在り方を模索する。将来は、活動領域を「農」と「青少年の育成」に拓げるべく準備を進めている。人生のゴールを「危機に強い人材の育成」に置く。

著書
退役後に出版した、東日本大震災の記録『武人の本懐』(講談社)が話題を呼ぶ。
平成27年(2015)には『指揮官の条件』(講談社現代新書)を上梓して、リーダーの在り方や強い組織の構築について世に問う。
平成29年(2017)3月、長年にわたる取材と調査を経て、『ソロモンに散った聯合艦隊参謀』(芙蓉書房)を上梓。