経常収支が黒字だから、日本株式会社は儲かっているのか

企業の経常利益と国の経常収支は全く異なります。久留米大学の塚崎公義教授が解説します。

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企業が儲かっているか否かを見る時に、よく使われるのが経常利益ですね。国には経常収支という統計がありますが、実は全く違うものなので、混同しないように注意が必要です。経常収支は、国の家計簿だ、と考えましょう。

家計簿は、稼いだ範囲で生活できたか否かを考える材料

家計簿は、収入と支出を記録し、どちらが多かったかを考えるためのものです。収入の方が多ければ、家計簿は黒字で、貯金が増えます。借金が減る場合もありますが、本稿では貯金という場合、借金を差し引いた差額(純金融資産残高)を指すと考えてください。

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ちなみに、収入と支出に関係のない取引は、家計簿の黒字赤字とも関係ありません。たとえば貯金を引き出して株を購入したり借金を返したりする行為は、純金融資産を変化させませんから、黒字赤字とは関係ありません。

輸出と輸入は、給料と消費に似ている

経常収支は、貿易収支とサービス収支と第一次所得収支と第二次所得収支を合計したものです。最初の項目である貿易収支は、輸出から輸入を差し引いた差額です。

輸出は、日本人が働いて作った物を外国人が使って良い思いをし、その対価を日本人に支払うものです。輸入は、外国人が働いて作った物を日本人が使って良い思いをし、その対価を外国人に支払うものです。これは、家計で言えば、会社のために働いて給料を受け取るのが輸出、給料でテレビを買ったりする消費が輸入と似ています。

ちなみに、二つ目の項目であるサービス収支も、本質は貿易収支と同じです。日本人の板前が働いて料理を作り、外国人観光客がそれを食べて代金を支払うのがサービスの輸出、マイクロソフト等の社員が働いてプログラムを作り、それを日本人が使って楽しみ、外国にその対価を支払うのがサービスの輸入です。したがって、両者を分けずに「財・サービス収支」と呼ぶこともあります。

所得収支は、労働の対価以外の収支

第一次所得収支は、外国からの利子・配当の受取と、外国への利子・配当の支払いの差額です。家計で言えば、銀行預金の利子等から住宅ローンの金利を差し引いたものですね。本質は家計と同じなのですが、家計の場合は預金の利率が極めて低い一方で、経常収支の場合は外国に貸し出した資金が高い利息を産むので、第一次所得収支は大幅な黒字となっています。

第二次所得収支は、途上国への援助です。家計で言えば、歳末助け合い募金のイメージですね。当然ながら、赤字です。小幅ですが。

以上の4項目の合計が経常収支です。まさに日本国の家計簿ですね。経常収支が黒字ならば、収入の範囲内で生活ができて、貯金(日本国民全体として海外に持っている資産。正確には外国からの借金を差し引いた差額)が増えるというわけです。

ちなみに、経常収支が黒字でも、日本人が持っている海外の株式が値下がりすると、財産が減ってしまう場合もありますが、本稿ではそうしたことは考えないことにしましょう。

日本は、過去からの経常収支黒字分を外国に「貯金」してあるので、海外に莫大な資産を持っていて、それが巨額の利子・配当収入となって、今年も経常収支が黒字になっている、というわけです。金持ちのところには金が集まってくる、といったイメージですね。

経常収支は黒字が良いとは限らない

高齢者の家計は、貯蓄を取り崩しながら生活しますので、通常は赤字です。それが予測できるから、現役時代に老後資金を貯めるために家計を黒字にするのです。高齢者家計が赤字であることは、全く問題ありません。人生は、金を稼いで遺産を残すことが目的ではありません。現役時代に稼いだ金を使って楽しい人生を送り、最後に葬式代だけ遺産で遺せば十分です。

その点、企業は違います。企業は黒字を稼いで株主に配当することが目的ですから。混同しないようにしたいものです。

日本も、今後は少子高齢化で経常収支が赤字になると予想されます。将来は、現役世代が全員高齢者の介護に忙しくて、製造業で働ける現役世代がいなくなってしまうかもしれないからです。しかし、そのことは何も問題ではありません。それが予想できるから、今のうちに経常収支を黒字にして海外に巨額の「貯金」をしておくのですね。

若者の家計も、赤字がダメというわけではありません。子供の学費が嵩んで赤字になる時期があったとしても、それは将来の子供の所得を大幅に増加させるための「投資」ですから、気にする必要はありません。一方で、若くて元気なのに失業していて収入がない、といった場合は大いに問題ですが。

途上国の場合、設備機械を輸入したことで経常収支が赤字になることがありますが、それは問題ありません。一方で、日本のような先進国で、外国製品の流入により国内シェアが喰われ、国内企業が倒産して失業者が大勢発生するようでは、問題でしょう。

米国の経常収支は常に大幅な赤字ですが、通常は誰も問題にしません。しかし、米国の景気が悪化して失業が増えると、外国に対して「失業を輸出している」と文句を言い始めます。要するに、問題は失業であって、経常収支ではないのですね。

なお、本稿は、厳密性よりも理解しやすさを重視しているため、細部が事実と異なる可能性があります。ご了承ください。

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久留米大学商学部教授 塚崎 公義

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塚崎 公義


1981年 東京大学法学部卒業、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行
おもに経済調査関連業務に従事した後、2005年に退職し、久留米大学へ
(近著)
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(雑誌寄稿等)
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