次世代エコカーでSiCパワーデバイスが一気急増

注目はローム、三菱電機、富士電機の積極投資

SiCパワーデバイスはEV用バッテリーの高効率化に大きく貢献(出典:トヨタ自動車)

 次世代エコカーで欠かすことができないのがパワーデバイスだ。電気自動車(EV)、燃料電池車などの次世代環境車では、徹底的な電力節約が求められる。とりわけEVは搭載しているバッテリー内に蓄えられた電力で走るしかないため、航続距離を伸ばすには電力の節約が極めて重要となり、そのためにはどうしても高性能のパワーデバイスが必要になる。パワーデバイスを使わないと無駄に消失するリーク電力が出てしまうからだ。

 この分野では現在、IGBTなどシリコン系の半導体が主役になっている。これを使うことで消費電力を大きく抑えることが可能だ。

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三菱電機、富士電機は車載を徹底強化

 では、パワーデバイスの代表格IGBTの世界チャンピオンはどこかといえば、三菱電機だ。実績もあり、技術の面でも三菱電機が業界のリーディングカンパニーであることは間違いない。三菱電機といえばお堅い社風という印象が強いが、だからこそパワーの分野に向いているとも言える。地味な分野だが、いかに電力を節約できるかが問われるこの業界ではむしろ天職といってよく、今後も同社の地位は揺るがないだろう。SiCについては鉄道向けで多くの実績を持ち、今後はハイブリッド車、EV向けを徹底強化していくという。

 先日同社の熊本製作所を取材したが、「当然今後の柱は車載であり、SiC(シリコンカーバイド)だ。SiCに関しても手綱を緩めることはない」と語っていた。つくばにある工場内にもSiCのラインを立ち上げており、ほぼフル稼働に近い状況だ。

 三菱電機に次ぐ2番手が富士電機である。従来、同社の設備投資はそれほどの金額ではなかったが、2017~2020年度では何と500億円規模の投資を行うという。しかも、その中心がSiCだ。トヨタが主な納入先で、プリウスに関してはほとんどが富士電機製のSiCパワーデバイスを搭載している。

 富士電機のパワーデバイスの特徴は、トレンチ型SiCである点だ。同社が世界に先駆けて開発に成功した画期的な製品で、富士電機によれば、「これまでのシリコンによるIGBTモジュールに比べ電力損失を78%減らすことが可能になる」という優れものだ。2020年以降にはSiCパワー半導体で世界シェア20%は取るという意気込みも見せている。

ロームは材料から内製しSiCで世界トップを狙う

 さて、車載パワーデバイス全体のランキングでは3位に甘んじるものの、ことSiCに絞ればトップに躍り出るといわれる企業がロームだ。

 ロームの最大の特徴は、材料からSiCパワーデバイスを作っていることにある。実は、SiCの材料は米国のクリー社がほぼ独占しており、ほとんどの半導体メーカーはクリー社から材料供給を受けている。パワーデバイスの価格が高止まりしている理由のひとつは、クリー社の価格決定権がきわめて強力なことだ。

 こうした状況が不満だったロームは材料内製に着手し、ついに成功したのだ(注:09年に独SiCウエハーメーカーのシークリスタルを買収)。この結果、材料コストが圧倒的に下がったのは言うまでもないが、好きな時に好きなだけ材料が調達できるようになった。これは同社のアドバンテージと言える。

 同社の製品を主に購入しているのは中国のEVメーカーだが、性能、価格に加えて供給の安定性から多くの中国企業がロームを信頼しており、継続的に大量の注文が入っているという。

 SiCパワーデバイスのトップはクリー子会社のウルフスピード、次いでドイツのインフィニオンとなっているが、このロームの巨額の設備投資は世界トップを狙う意気込みの表れだろう。ローム幹部に取材しても彼らは「絶対に車載向けSiCで勝つ」と強気の姿勢を見せていた。

 ロームは現状ではホンダ向けを中心に宮崎工場でIGBTを製造しているが、常にフル稼働状態で増強投資を考えている。また、福岡県筑後にある子会社にも新工場を建設する計画だ。約200億円を投資し、2020年に生産能力を倍増、小型で高効率のSiCパワー半導体の量産でEVの走行距離の延伸につなげていく。

 さらに、ルネサスから取得した滋賀工場「ローム滋賀」でも投資を構想しており、これから3カ所体制でウルフスピード、インフィニオンを追い詰めようというわけだ。2025年3月期までには世界シェアを現在の2割から3割に高めるとしている。国内外のEV市場を攻略することに成功すれば、十分勝ち目はあるだろう。

(泉谷渉)

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■泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
 30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は電子デバイス産業新聞を発行する産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎氏との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)などがある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。

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