驚異的な新素材「グラフェン」の量産技術で先行する日本-関連企業は?

この記事の読みどころ

黒鉛から新素材のグラフェン(graphene)を大量、高品質、低コストで生産できる技術開発が注目されています。

グラフェンは熱伝導度、引っ張り強度、電気伝導度などに優れた新素材で、コストが下がれば大きな市場形成が予想されています。

商業化の前提となる低コスト、大量生産では日本の大学と民間企業のコラボレーションが世界的に先行しています。

グラフェンの発見から6年でノーベル賞が授与された

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カーボンナノチューブ(CNT)、フラーレンなど、炭素原子が結合した新しい素材が世間をにぎわせて久しくなります。

これらは総称して「ナノカーボン材料」と言われていますが、応用分野で世界的な商業生産に乗り出したという情報はほとんど聞かれません。いずれも科学技術としては素晴らしい発見ですが、これを実用化して利益を上げられるところまでいくのには別な次元の努力が要求されるのです。

そんな中、2010年に英国マンチェスター大学のアンドレ・ガイムとコンスタンチン・ノボセロフがグラフェンという新しい結合炭素原子シートの発見でノーベル物理学賞を授与されました。2004年にグラフェンを発見して6年後の受賞です。

これほど短い期間で受賞に至ったのは、学問的な画期性に加えて、実用化の観点でも先行した他の結合炭素材料とは異なる画期性があるように思えます。

そもそもグラフェンとは何か

鉛筆の芯は黒鉛でできていることは良く知られていますが、この黒鉛を一般的にグラファイトと呼んでいます。グラファイトは、六角形の格子状の炭素原子が何層にも積み上がったハチの巣のような結晶構造をしています。

先述のノーベル賞を受賞した2人の科学者は、粘着テープをグラファイトの断片に貼り付けつけることで、炭素原子一層だけの厚み(およそ0.3ナノメートル)のシートをはぎ取ることに成功しました。これが受賞のきっかけになったとされますが、このシートそのものがグラフェンです。

グラフェンの特性と市場化されるための条件

材料としてのグラフェンの特性をまとめると以下の通りです。

  • 同じ炭素の結晶であるダイヤモンドよりも炭素同士の結合が強い
  • 世界中でもっとも強い引っ張り強度(鉄の200倍の強度)
  • 熱伝導度、電気伝導度に優れる(半導体シリコンの100倍の電子移動度)

こうした特性から、LEDの放熱モジュール、スマートフォンの放熱シート、高速半導体の放熱促進材料、電磁波遮断材料、静電気の帯電防止材料、燃料電池の電極材料、導電インク、あるいはグラフェンの二層構造の中に別な物資を挟み込む超電導材料などの応用分野が有望と言われています。

また、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の予測によると、グラフェンの世界市場規模は2013年の13億円から2030年には1,000億円に拡大すると見られています。

これを見ると驚異的な材料だと思われますが、冒頭で述べたCNTやフラーレンも同じように画期的な材料だと言われたものの、未だに商業化で成功したという話は聞きません。グラフェンも市場化の前提として重要なのがコストだと思われます。

今の販売価格はキログラム当り2万円以上するそうです。なぜ高いかというと、CVD装置(化学的気相成長装置)の真空状態の中に炭素を含んだガスを充填し、炭素原子を六角形格子構造につなげる方式だからです。これでは大量生産が難しくコストが下がりませんでした。

新しい量産技術を打ち出した大学と民間企業は?

この点に関して、日本では世界に先駆けて画期的な技術開発を推進しています。大阪ガス(9532)と、東京大学の新しい生産技術の特許権を得たADEKA(4401)が先行しているようです。

大阪ガスは、価格を半分に引き下げる技術を開発。2016年中に商業生産を開始し、サンプル出荷に踏み切るとのことです。この技術では従来法と比べて2倍の生産性を実現し、キログラム当り1万円以下で販売できる目途が立ったそうです。

製法は石炭由来のフルオレンを水などと混ぜて添加剤に使いと黒鉛を高速で衝突させて製造するもので、当面、大阪市内にある研究所で生産しますが、受注状況次第で設備増強も視野に入れている模様です。

ADEKAは、東京大学大学院工学系研究科化学生命工学専攻の相田卓三教授らの開発したグラフェンの製造技術に関する特許の独占ライセンスを取得しています。2015年10月には、本格的なサンプル提供を開始したと発表しました。

製法は、イオン液体中の黒鉛にマイクロ波を照射して製造するものです。30分という短時間で高収率、高濃度、高品質のグラフェンを得ることができるといいます。既にグラフェン分散液、粉末品としてサンプル出荷を始め、2020年までに本格的商業ベースに乗せたいとしています。

このほか、民間企業との提携は不透明ですが、東北大学原子分子材料科学高等研究機構と東京大学研究グループがグラフェンの超電導化に成功したと2016年2月4日にプレスリリースを出しました。

これはシリコンカーバイト(SiC)単結晶上にグラフェンを1層ずつ形成し、2層の間にカルシウム原子を挿入したグラフェン層間化合物を作成したもので、マイナス269℃で超電導が確認されたといいます。

加えて、電子の高速移動がシリコンの200倍以上という特性を生かし、究極の超高速ナノ電子デバイスの実現にも可能性が出てきた模様で、非常に注目されます。

【2016年3月21日 石原 耕一】

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石原 耕一

早稲田大学法学部卒。ペンシルバニア大学ウォートン校AMP修了。
大学卒業後、和光証券(現 みずほ証券)に入社。その後、リーマンブラザーズ証券、UBS証券、みずほ証券等でアナリストとして40年以上株式市場で調査活動に従事。特に化学セクターでは20年以上の調査経験を持つ。