投資対象の「流動性」に敏感になろう―投資行動の視野を広げるために

この記事の読みどころ

少し前まで年末に現金を多めに引き下ろさないといけなかったことを考えると、いつでもATMで現金を引き下ろせるのは、大変ありがたいことです。

投資や運用の世界では、いつでも現金にすることができることを、「流動性」という言葉で表現します。

投資や運用を行う時、価格の変動だけを見ていると見過ごしてしまうことがあります。価格の変動だけでなく、流動性の動向にも目を向けると視野が広がります。

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今は年末に多めの現金を引き下ろさなくても良くなった

年末年始は何かと現金が必要な時期です。年末年始に、特に現金決済でビジネスをされている小売業やサービス業の方々は今も昔も変わらないかと思いますが、個人であっても少し前までは、「銀行のATMは年末にお休みになってしまうので、その前に多めに現金を下ろしておこう」というのが普通でした。

今では多くの銀行のATMは年中無休ですし、コンビニエンスストアのATMも普及してきたので、「現金を下ろしておかないと・・・」といった心配をすることは少なくなったかもしれません。

年末年始は休日扱いの日も多く、手数料がかかる時間帯が長いでしょうが、それでも、「いつでもお金を引き下ろせる」という安心感は今の方が強いと思います。

いつでもお金を引き下ろせることの意味

「いつでもお金を引き下ろせる」をあえて厳密な表現にすると、「日本円の銀行預金(という金融商品)をいつでも日本円の現金にできる」となります。

今の日本では、ATMで現金を下ろせることが当たり前すぎることなので、普段気に留めませんが、自分の生活のベースとなっている通貨の現金に、自分の資産を、いつでも簡単に換えられるかどうかというのは、本来はとても大切な視点です。

2015年6月に深刻化したギリシア危機。その対応のため、1週間近く銀行は営業停止となりました。営業再開後も、ギリシア市民は1日あたりの引き下ろし額が60ユーロ (約8,000円)までに制限されました(参考:2015年6月29日付 日本経済新聞)。現金を引き出そうとATMの前で並ぶ人々の映像も多く報道されました。

「いつでもお金を引き下ろせるわけではない」状況になると、「まずは自分のものを何とかしよう」という行動をとり、時にはパニックを引き起こすこともあります。

投資や運用の世界で使われる「流動性」という言葉

いつでも簡単に現金に換えられるかどうかのことを、投資や運用の世界では「流動性」という言葉で表現します。流動性が高いものほど、すぐに現金に換えることができます。

トヨタ自動車の株式100株と、ワンルームマンション1室を同時に売却しようとしたら、ほぼ間違いなくトヨタ自動車株の方がすぐに現金になります。したがって、トヨタ自動車株の方が、ワンルームマンションよりも流動性が高いということになります。

買いたい人の希望と売りたい人の希望が折り合って初めて価格が決まります。買おうかな、売ろうかな、と考えている人が多いほど、価格が決まりやすくなります。流動性が高い状況というのは、その投資対象に対して売買している人、または注目している人が多いということでもあります。

市場の急変時には「流動性」の急低下が見られる

同じ投資対象であっても、外部環境や時期によって流動性は変動します。

金融の世界で時たま起きる「〇〇ショック」。たいていの場合、どこかの市場で流動性が急低下しています。ショックが起きる前はいつでも簡単に売買できていたものでも、何かの理由で誰も買いたがらなくなり、売買が成立しなくなります。価格が決まらなくなります。

そうすると、不安に思って「現金にしておこう」と売りたい人が増え、ますます価格が決まらなくなります。これが繰り返されて、急激な価格下落が起きます。さらに、そうした動きに乗じて、売りを仕掛けてくる市場参加者も出てきます。

流動性が低下してしまった市場で現金化できないなら、別の市場で現金を確保しようということになり、ショックは別の市場へ飛び火していきます。今年も、8月の上海株式市場の下落に端を発する世界同時株安(チャイナショック)が起きました。ショックの飛び火の典型例です。

このように、流動性の急低下の局面では、投資家の「現金にしておこう」という行動を伴います。

こうしたショックは、何も株式市場だけではありません。2008年のリーマンショックの時は、どの金融機関がどれだけの損失を抱えているか分からなくなり、疑心暗鬼に陥りました。どの銀行も他の銀行に資金を融通したがらず、インターバンク市場(銀行間市場)の流動性が枯渇しました。

1997年のアジア通貨危機ではアジア諸国の通貨の流動性が、1990年以降の日本の不動産バブルの崩壊では不動産の流動性が、それぞれ一気に低下しました。

「流動性」という視点を投資に取り入れよう

投資や運用を行う時、価格の変動だけを見ていると見過ごしてしまうことがあります。価格の変動だけでなく、流動性の動向にも目を向けると、今まで見えなかったものが見えてくるかもしれません。特に気にしてほしい時を2つばかり取り上げてみました。

流動性を気にしてほしい時(1):「〇〇ショック」が起きた時

株式市場では、毎年のように「〇〇ショック」が起きます。上にも下にも価格変動が大きくなるので、価格だけを見ていると、結局何が起きているのか分からなくなり、混乱します。

その際は、「誰が売りたがっているのか」、「売りたがっている人は、本当に現金化したい人なのか」、といったことにも意識を向けてみてください。パニック売りによって、もったいないことをしてしまうことが少なくなるかもしれません。

流動性を気にしてほしいとき(2):これから新たに投資をする時

以前の『株投資をする時に「買う」ことばかりに目がいくとうまくいかない』の記事では、「株投資の際は売り値のことを考えてみる」ことをお勧めしました。

現金を投じて買い付けた株式は、売却して、現金で回収して、初めて利益として実現したことになります。ですから、買い付けた株式が目標価格で売れるのか、または、目標価格で株式を買いたいと思う別の投資家が現れるのかどうか、といった視点が必要になります。

その視点を持つためにも、買い付ける株式の流動性が高まっていくかどうかに、ぜひ思いを馳せてみていただきたいと思います。

また、買い付ける時の流動性が十分に高い場合は、「この流動性が低くなることはあるのか」、「流動性が低くなった時はどう対処するか」、といったことも心に留めておくと、リスクコントロール能力が高まります。

これは株式に限らず、不動産から美術品まで、投資全般に言えることです。

まとめ

投資をする際は、投資対象の価格の変動だけでなく、ぜひ、取引量などが示す流動性にも目を向けてみてください。2016年もきっといろいろなことが起きると思いますが、広い視野を持った、いつでも冷静でいられるスマートな投資家でありたいものです。

【2015年12月24日 藤野 敬太】

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藤野   敬太

東京大学経済学部を卒業後、プライスウォーターハウスクーパースコンサルタント(現日本アイ・ビー・エム)等を経て、2001年から2013年まで、日興アセットマネジメントにて、アナリストおよびファンドマネージャーとして日本株ファンドの運用に従事。
現在は、オフィス・ラコルドの代表として、ファミリー向け・ファミリービジネス向けのコンサルティングおよびアドバイザー業務を展開する。
CFP(日本ファイナンシャル・プランナーズ協会認定)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、シニア・プライベートバンカー(日本証券アナリスト協会認定)。