為替ヘッジの仕組みと功罪~あなたはどちらを選びますか?

ヘッジの仕組みとコストを知っておこう

為替ヘッジあり、なし、どちらがいいのか?

前回記事の『国際分散投資のススメ』では、国内資産に偏ったホームカントリーバイアスを是正するために国際分散を図る意味合いをご説明しました。また、外国の資産に投資する場合、市場へのアクセスや決済、為替リスクのコントロール等の観点で投資信託という器を通じる効用があることは拙稿『投資信託の7つの効用』などの記事でご説明しました。

では、それらの考えを採り入れていただいて、外債投信に投資することに決めたとします。ここでハタと悩むのが「為替ヘッジあり」「為替ヘッジなし」コースがある場合の選択です。筆者も友人によく聞かれるのが「この国の債券がいい理由はよくわかった。でもヘッジありとなしのどちらを選べばいいのか?」です。

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極めてざっくり言うと、為替ヘッジなしの場合、基準価額の騰落のうち2〜3割は為替の影響です。投資対象資産や相場つきによっては、もっと大きい場合もあります。その意味で、投資対象資産の値動きのみを抽出して純粋にそのリスクに賭けたい場合は、為替の変動はパフォーマンスにとって望まぬ「ノイズ」でしかありません。

ヘッジありコースを選択すると、パフォーマンスの出方は原資産の動きが主たる要因となるので予測性は高いと言えます。為替ヘッジは数か月先の支払いを双方が確約する取引ですので、信用力の劣る個人投資家が自分でできる代物でなく、銀行や運用会社等のプロを通じてしか得られない経済効果です。

しかし、その為替リスクを減らすには「ヘッジコスト」を払う必要があります。長期間に亘るとこのコストは結構大きなものとなります。

ヘッジの仕組み

なぜコストがかかるかについて、ここで為替ヘッジの仕組みに触れておきます。

ご存知の通り、為替レートは刻一刻と変化します。しかし、将来の為替レートを今のレートを基準に予約できれば為替予約受渡日までの途中の変化は影響がなくなります。為替予約は銀行間の相対の取引ですが、よくある年頭の社長アンケートや日経新聞の読者による予測ダービー的なものではなく、スポットレート(直物)と両国間の金利差の関数により、もっと理論的に価格が決まります。

たとえば、1ドル=110円とし、単純化するために円の1年物金利は0.1%(R)、米ドル金利は同期間で2.5%(r)と仮定します。

今すぐに1年後の為替予約取引をしたい2つの銀行があれば、お互いが損得なしにドルと円を交換できるレートを考えるとこうなります。

今、スポット(S、直物)で110円払って1ドルを相手から買ってドル預金に投資すれば、1年で2.5%の利息が付くので1年後には元利合計(=1+0.025)で1.025ドルになります。相手は逆に手持ちのドルを売って円預金に投資すれば1年後の元利合計は110円 x(1+0.001)=110.11円になります。

そうすると、どちらも損得なしに成り立つ予約レート(F)は1ドルあたり110.11÷1.025=107.42円です。式で書くと、F = S x(1+R) ÷(1+r)です。

ヘッジコスト

スポットレートSと予約レートFの差(110-107.42=2.58円)を「フォワードの開き」と呼び、これがヘッジコストと言われるものです。

上の式を見ていただければわかるとおり、米ドル金利rが円金利Rに対して相対的に大きくなると割り算の分母が大きくなるので、Fが小さくなります。すなわち、コストであるS-Fはドル円の金利差が開けば大きくなります。

今、ドル建ての外債を持っている人は1年後予約をすれば途中の為替変動に一喜一憂しなくても良い代わりに1ドルを今より2.58円安く売る、すなわちドル建て資産(=外債)の換金価値が目減りするため、ヘッジすることはアップサイドを捨ててコストを確定させる保険です。

上記例ではヘッジコストは投資元本に対し2.34%であり、通常1%半ばから2%弱の信託報酬よりも高くつきます。

ヘッジする場合は、円より金利が高い国の外貨資産の場合は必ずヘッジはコストとなり、逆に金利が円より低ければ予約レートは現在より高く外貨を売れるので為替差益が出る「ヘッジプレミアム」になります。円は限りなく金利がゼロあるいはマイナスに近いので、どの国の金利と比べても相手国通貨の金利が高く、ヘッジするためにコストを払わねばなりません。

ここでの留意点は、投信の資産残高が日々変化するためヘッジはそれに合わせて通常1~3か月程度の予約期間でロールしながら行うので、将来的に金利差が拡大すればヘッジコストが上昇します。

その意味で、前々回の記事『金利上昇期にはどんな資産に投資すればいい?』で見たように米欧が金融緩和の出口に立ち、日本は緩和終了のメドがない現状では、海外との金利差が開いてヘッジコストが上昇していくことを想定しておく必要があります。

上述の前々回の記事で、短期金利連動型の資産に投資すればヘッジコストの上昇分を受取金利増で吸収できると書いたのはそういう意味です。

「ヘッジなし」のメリットとデメリット

逆にヘッジなしの場合はどう考えればよいでしょうか? 株式やリートの場合は「ヘッジあり」コースがあまりラインアップされていないので、ここでは外債の場合に特化します。

為替レートは純粋に原資産のリスクだけを取り出したい場合はノイズかも知れませんが、金利が上昇すると債券価格は下落するのでフルヘッジだと下落の効果だけを食らいます。しかし、ヘッジなしの場合、一般的には海外金利が上がると為替は外貨高・円安となる相関性が強いので、債券の下落分を相殺する効果があります。

その意味で、ヘッジなし外債は債券リスクと為替リスクという負の相関性を持つ2種類のリスクに分散されているので「ひとり分散効果」がある投資手法です。

当然のことながら、基準価額騰落率の標準偏差をリスクとして見るとヘッジなしの方がリスクは高いのですが、長期的に見た場合、ヘッジありは確実にコストがかかる上に金利差拡大によりヘッジコストの上昇懸念があることを考えれば、現在の局面ではヘッジなしで「ひとり分散効果」を狙うのも有効な手段かと思われます。

まとめ

いかがでしたでしょうか。簡潔に言うと、ヘッジはタダではなく、アップサイドを捨てて信託報酬に追加で同等レベルのコストがかかる「保険」です。また、「ヘッジあり、なし、どちら?」という問いに対しては、上記の特性を踏まえると金利動向の局面によりけりという回答になりますが、原理原則を知っておくとご自分で判断する材料になると思います。

林 俊宏

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林 俊宏

国内大手信託銀行を振り出しに、系列の投信運用会社、外資系運用会社、販売会社等で一貫して商品企画に携わる。
株、債券、リートにとどまらずバンクローン、デリバティブ、ヘッジファンド、プライベートエクイティも投資または組成経験あり。
証券アナリスト協会検定会員、ペンシルベニア大学・ウォートンスクールにてMBA取得